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聞かれて仲間の一人は驚いたように話し始めた。
「最近この集落に来た奴があんたを殺ったって、もっぱらの噂だったぜジェイ。最近来た奴っていったら、ルーイしかいねえじゃねえか。しかもあんたが怪我してからルーイの奴、なんかこそこそしてたしな」
誰に聞いてもこのような答えが返ってくる。
「おれがルーイに? それは無い。絶対だ」
ジェイはきっぱりと答えた。しかし返って怪しむ者もいる。皆噂に振り回されている。おまけに、その噂が元でお互いに不信感を抱き始めており、集落全体がぎすぎすしていた。
「根拠のない噂を信じるなよ。現におれは生きてる。ルーイは悪くない」
「じゃあルーイの奴はどうしたんだ? 何で一緒じゃないんだ」
「こんな噂のあるとこ出れるわけねえだろ」
ジェイはルーイがいないことについてはそう誤魔化し、噂についてはきっぱり否定して回った。皆に自分が健在であることを誇示し、お互いを監視するような集落の雰囲気を打ち消しにかかった。
「まずいぞ、ディ」
ジェイは言った。
「な、何が?」
「踊らされてる気がする。ディ昨日おれが言ったこと、誰にも言うなよ? ってゆーか覚えてるか?」
「昨日って……ルーイのこと?」
「そう。絶対誰にも寝言でも言うな」
ディは不安そうにジェイを見る。ジェイはいいな、とディに釘をさした。
集落に噂をまいて仲間意識を乱した存在は、恐らく自分を始末しようとした存在と同じだろうとジェイは思った。何か大きな力が関与してきているように感じる。
負けられない、とジェイは思った。
これ以上簡単に、権力に呑まれるわけにはいかないのだ。
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