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すると彼女は
「そうだったんですかぁ。急いだ方がいいですよぉ~?そろそろ始業式が始まる時間のはずですからぁ~」
と、和やかに言った。内容の割に彼女の口調が随分のんびりしたものだったので、直ぐにピンとこなかったのだが、ようく考えると(考えなくても)時間はかなりまずいらしかった。僕としては、ギリギリ間に合っているのだろうと思っていたのだけれど、始業式進行か何かで通常とは違う時間で動いているとかなのだろう。しかし、それはそれとして、目の前の彼女は何故急いでいないのだろうか。という疑問がある。時間を把握しているし、見た目も真面目そうで、とても始業式をサボる様には見えない。考えても仕方ないので、直接聞いてみた。
「あなたは急がなくていいのですか?もうすぐ始業式が始まるのでしょう?」
「あぁ、それなら大丈夫ですよぉ。私は後で入場する予定なのでぇ。こう見えても私は結構エライ人なんですよぉ?」
彼女は得意気だった。
自分を人と言ったのに、若干の違和感はあったが、彼女には彼女の理由があったようである。疑問がスッキリしたところで、僕はもう一つ質問をした。
「すいませんが、もう一つ質問してもよろしいですか?エライ人さん?」少し冗談めかして言ってみた。
「いいですよぉ。何ですかぁ?転校生さん?」
「ありがとうございます。其れでは、…職員室にはどう行けばいいですか?」
「はい?はぁ、職員室ですか?ここからなら、…………で着きますよぉ。今の説明で大丈夫でしたかぁ?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございました」
そうお礼を言って、職員室に向かう為、彼女と別れた。
「自転車は、自転車置き場に置いてくださいよぉ~」
彼女は、職員室に向かう転校生の後ろ姿に向かって、そう叫んだ。そして、小さな声で
「……私の正体を見て、何も言わなかった人は久しぶりですねぇ……」
と、呟いた。とても楽しいことが起きたというふうに、くつくつと笑いながら。
僕は、後ろから聞こえる彼女の声に手を振りながら了解したことを伝えながら、先ほどの二つ目の質問をしたときに、彼女の反応が少し変だったことについて考えていた。まるで、僕が予想外の質問をしたという風だった。彼女は、僕が何について質問するだろうと思っていたのだろうか。しかし、考えてもすぐに答えは出なさそうだったのでとりあえず保留にすることにした。
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