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「――そう、諸官には言っておいてくれ」
陽子は窓枠に腰をおろす。軽く膝の上で指を組んだ。
「わたしはしばらく街で暮らしてみようと思う」
なおも言いつのろうとする景麒の隣で瑠珂は微笑んだまま、陽子の背中を押してくれているかのようだった。
「――景麒、頼む」
それに押されて陽子は景麒を説得した。
「……かしこまりました」
「ありがとう。……景麒に分かってもらえて嬉しい」
陽子にはこの下僕しかいないのだ。陽子には延王とは違い、信頼できる者が景麒しかいない。この広い王宮の中で、本当にこの麒麟だけなのだ。
瑠珂は実権を持ってはいない。持たせることを諸官に反対された。諸官の誰よりも瑠珂は博学で、頭が良く、武芸に秀でていてもなお、陽子には瑠珂に官職を与えることは叶わなかった…。
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