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ヨシオは、腕を振り上げたまま、泣いていた。
何が起こったかは分からないが、玄関先でオッサンが号泣しているこの状況、コウタは無理やりオッサンを引っ張って、家に押し込んだ。
ソファに座ってもまだ泣いてるヨシオ。
コウタはとりあえず麦茶を出すためにキッチンに下がった。
「キャン。」
「ぅお!リン!あんまり飛びはねんな!」
麦茶を持ってきたコウタは、ヨシオを励まさんがごとく周りを跳ね回るリンを見て叫ぶ。
落ち込むヨシオ。
飛び跳ねるリン。
叫ぶコウタ。
「リン、あんま飛ぶと流産しちまうよ!」
ヨシオは○○県生まれ、次男。
県内の公立高校を出て、それから役場勤めを26年。
真面目が取り柄の男で、馬鹿ではない。
馬鹿ではない・・・。
そう、すぐに理解した。
妊娠したのは、目の前の犬、リンである、と。
涙はすぐ渇く。
「・・・どうやら迷惑をかけたな。失礼する。」
何事もなかったような表情。
ヨシオはソファを立ち上がった。
「あ、いや、なんもおかまいしませんで・・・。」
「キャン。」
リンが笑った。
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