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独り言を聞き取った通行人が、変な物を見る目でさりげなく自分を眺めていることに気付く様子もなく、イズミはとぼとぼと歩きだす。
イズミは思い返す。歳を重ねる度に己が身を襲った悪夢の数々を。
去年の誕生日には、高級なメロンが収められていそうな木箱が、海外にいた父から送られてきた。木箱を開けてみれば、高級メロンは入っておらず、メロンほどの大きさの、甘ったるい匂いを放つベッコウ飴が入っていた。それだけでもイズミは十分驚かされたのだが、取り出して飴をまじまじと見てみれば、何やら異物が混入しているではないか。イズミはその異物がナニかを確認するなり、飴を箱に戻し、翌日には燃えるゴミとして処分した。
飴には子猿のミイラ――苦しげに歪んだ子猿の顔は今でもイズミの夢にときたま現れる――が琥珀の中に眠る昆虫さながらに入っていたのだ。
これはまだマシな方で、一昨年の誕生日プレゼントはさらに手に負えなかった。
イズミが友人と市民プールでひと泳ぎし、ほどよい疲労感と共に自室に戻った時のことであった。
イズミは水泳後には必ずと言っていいほどやって来るあの心地いい睡魔に襲われ、抵抗することもなく自分のベッドに倒れこみ、眠りにつこうとした。
しかし、微かな異臭が鼻腔を通り過ぎていったために、意識を眠りの世界から舞い戻らせる羽目になった。
何かが腐っているような、そんな臭い。
イズミはまどろむ目をこすりながら辺りを見回した。
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