歓喜

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いやはや、偶然とは云々かんぬんと頭の中で反芻しているうちに、彼女は一軒のマンションの敷地に入った。 こんな偶然があっていいのだろうか、いやあっていいのだ。 むしろかくあるべきだ。こうあってしかるべきだ。 さもありなん。 もう心の中では小躍りしている自分がいた。 なぜかと言われれば、彼女と僕のマンションが同じだからだという答えに尽きる。 こんな偶然って、また同じことに喜びを感じつつ、オートロックを解除してマンションの扉を開け中に入っていく彼女の勇姿を拝する。 このマンションの作り上、外からでも階段が見え、何階で降りるかも確認できるので外の電信柱の陰から覗き見ると言う、典型的監視手段を講じた。 普段は「防犯的見地から見て、この構造はいかがなものか。遺憾の意を表明する」などと、擬似国会答弁を展開しているのだが、 この日ばかりは「いかなる事由を持ち出したとしても、この建築に口出しすることは出来ないのだ」などと嘯いたのも無理からぬことであろう。
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