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毎日毎日頭の中をぐるぐると回る暗い考え。
頭の中に鉛を詰め込まれたようだ。
だから僕は誰とも接したくない。これ以上何かが僕の中に入り込んだら耐えきれないから・・・。
バランス取り続けてそれでも生き続けるのは僕が弱いからだ。
そんなことを無意識に考えながら僕は中庭へと出かける。
いつものあの猫に名前をつけようと思い立ったから。
白い小さな猫。
僕自身を傷だらけの猫に投影していたのかもしれない。
なんとなく餌をやり続けるあの子猫に名前を付けてやってもいいんじゃないかって思ったから。
中庭へ行くといつもすり寄ってくるはずの姿がないことに気づく。
「あれ・・・。珍しいな」
そう一人で呟いて辺りを見回した。
人間は見たくないものを無意識に認識範囲から外すことがあるという。
その時の僕はまさしくそんな状況だったんだと思う。
周囲をぐるっと見回しても見当たらない。
そしてもう一度後ろを振り返った時だった。
白い体についた泥。
そして赤い赤い血。
バラバラに認識するが故にそれが何なのかわからない。
そしてその一瞬あとにそれが思い浮かべていた猫だと気づいた。
そんな猫を抱えてこちらを見ていたのは…。
「せ……芹沢?」「もう手遅れだわ。あなたが来る少し前には冷たくなっていたから」
そう言って汚れるのも構わず傷だらけの体を制服のスカーフで包む。
僕は何も言えずにその行為をじっと見つめていた。
「だから言ったのに。無抵抗で守れるのは自分だけだって。この子はあなたの無抵抗に対する罪を背負った」
そう言って僕を見つめる。
「僕の…無抵抗の罪?」
馬鹿の一つ覚えみたいに芹沢のセリフを繰り返す。
そんな僕を見て芹沢がもう一度ゆっくり僕を見て呟く。
「あなたは…、自分の罪を目の当たりにしてまだ無抵抗を続けるの?」
そう言った芹沢を見つめながら僕は自分の頭が鉛に潰されそうになるのを感じていた。
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