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僕が独りきりでいようとする理由。
僕が生きているだけで誰かが傷ついてゆくことを知っているから…。
そうだ。知っていた。
知っていたのに僕はまた同じことを繰り返した。
芹沢の腕の中、既に命を失った小さな体を見つめながらそんなことを考えていた。
『お母さん…』
『優羽…。あなたの名前はね…』
フラッシュバック。違う、そんなことを考えてる場合じゃない。
指先から熱が消えてゆく。
カタカタと体中が震え出すのがわかっても止められない。
「違う…。僕はそんなことを望んで無抵抗でいたわけじゃない…」
そう呟いた僕に子猫を押し付けたその一瞬。
右の頬に鋭い痛みが走った。
「…。面白くない答えだわ。じゃあ、その子が望んだとでも?」
腕の中で冷たくなった子猫。
何も言えないでいる僕に芹沢は言った。
「言ったはずよね?無抵抗で守れるのは自分だけだって。あなたが傍にいて優しくしたことが悪いわけじゃない。無抵抗で傷つくことからも傷つけることからも逃げたからよ。」
その場にしゃがみ込んで熱を失った体を抱きしめる。
傷ついたのは誰だ?
あの時傷ついたのは…。
今傷ついたのは…。
そうだ。
あの時だって今だって…。
傷ついたのは『僕』じゃなかった。
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