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誰かのことを好きだということは褒められることがあっても、誰かのことを嫌いだということが褒められることはない。
どちらも人間の感情という意味では同じだけれど。
僕がこんな風に地面に転がる羽目になったきっかけは、良く考えるとそんなくだらない一般論すら理解していなかった高一の僕に責任がありそうだ。
入学してしばらくの間は楽だった。
みんなが相手との距離を窺っていて、近くに寄ってきやしないから。
しばらくして何人かのグループが出来た頃だ。
当然僕は独りで過ごしていた。
そうとはわからないほど静かに。
そんな僕にお節介な台詞を投げて群集に放り込もうとした奴がいた。
あいつの名前は篠原深薙(しのはらみち)。
いつでも輪の中心にはごく自然にあいつがいる。
『藤島くんも一緒に遊びに行かない?いつも一人じゃ寂しいでしょ』
そんな台詞を聞いた僕の回答は…。
『面倒見が良いフリも、つまらない同情も結構だよ。僕は好きで独りなんだから。僕は残念ながら人間なんて大嫌いなんだよ』
と笑顔で返したのがまずかった……らしい。
らしいなんて曖昧な台詞になってしまうのは、僕に自覚がないせいもある。
それから僕にきっかけを教えたのが他人だっていうのが本当の理由。
僕が唯一他者と区別出来るだけの存在認識をしているのは、クラスメートの中でも2人。
一人はさっきの篠原深薙。
そしてもう一人が、僕をマゾ扱いしてくれたこの女。
芹沢琉鴉(せりざわるあ)だ。
きっかけを僕に教えたのは琉鴉だった。
暴力と無抵抗の日々の中で唯一僕が抵抗を試みる存在。
藍色の髪の変わった女。
後頭部をしこたま叩かれた僕はどうやら頬を下にして琉鴉の膝の上にいるようだった。
全くつまらない。
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