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「頭の傷ってたいしたことないわりには派手に出血するのよね。藤島くんの怪我も例にもれずよ。ってことでいつまでも女子高生の膝を堪能しないでくれるかな?」
そう言って突然立ち上がったことで、僕は再度顔面を強かに地面にぶつける羽目になった。
「お前、頼んでもいないのに自分から膝枕しといて…。言っただろ、僕は人間が嫌いなんだから近寄るなよ」
そう返して、鼻の頭を撫でる。
「知ってるわよ。でも私は人間が好きなんだから仕方ないわよね。あなたを見てると面白いのよ」
といつものやり取りをする僕らの足元に白と茶色の猫がすり寄ってくる。
学校の裏庭に住み着いてる猫だ。
僕は鞄を拾い、弁当を開けてやる。
はぐはぐと食べる猫の頭を撫でる僕。
「藤島くんは猫には優しいのね。人は嫌いなくせに」
「だから言ってるだろ?僕は人間が嫌いなだけで動物は好きなんだよ」
動物はいい。
生きるために他者を傷つけることはあっても、自分のエゴや気分次第で他者を傷つけることはないから。
ましてや裏切ったりなんか絶対しない。
腹いっぱいになったのか僕にすり寄ってくる。
そういえばこいつには名前をつけてないな。
そんなことを考えている僕を一瞥して芹沢はため息をつく。
「今日はもう面白いことはなさそうね。あ、それから忠告しておくわよ。無抵抗は自分を守ることはできても他者は守れないわよ」
まぁ、守る気もないしわかってやってるんだろうけど…。
そう言うと藍色の髪を翻して去って行く。
少し離れたところでくるりと振り返った彼女は真面目な顔で言った。
「そうそう、良いことを教えてあげるわ。嫌なことをやり過ごしたいなら数を数えるといいわよ」
言い終えるとさっさと校舎の方へ戻っていく。
芹沢琉鴉。
高3になって始めて存在認識したこの女。
全くもってわからない。
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