暴力と無抵抗の日々

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あの日僕が篠原深薙に対して発した言葉はまたまく間にクラス中に広まった。 それでも負けずに篠原は僕に声をかけた。 帰って何をしてるだの、勉強を教えてほしいだの僕にとっては実にどうでもいい話。 運の悪いことにいつでもクラスの中心にいた人気者の篠原は、同じくらい男にも人気だった。 そんな篠原に冷たい態度を取る僕が気に入らなかったのだろう。 最初は教科書がなくなるとか、上履きに画鋲とかベタな行為が頻発した。 教科書がなくなると篠原が貸してしまうとわかって、それはやめたようだけど。 今日みたいに実際肉体に危害を与えられるようになったのは高2の終わりだったと思う。 クラスの名前も覚えてない誰かが篠原にふられたらしい。 その時に篠原が言った台詞。 『藤島くんのこと虐めるような人に好きって言われても…』 なんて逆効果な台詞だったのかと機会があるなら僕が篠原を殴りたいくらいだ。 僕は確かに嫌がらせを受けていたけど、虐めを受けてたわけじゃない。 それが篠原の偽善的な正義感で本格的な虐めに変わった。 放課後に猫に餌をやりに行く習慣がばれて、待ち伏せされたのはある雨の日。 所謂ボコボコ状態だった。 人間不思議なモノで痛いのは最初の一発だけだ。 次は鈍い痛みと意識の薄れ。 3発目は麻痺して何も感じなくなる。 抵抗するのも面倒で殴られるままにしていた。 ひとしきり殴って満足した奴らが立ち去った後、ふと目をやると雨の中に鴉が見えた。 いや、よく見るとそれは藍色の髪をした女だった。 顔には冷たい笑みを浮かべていた。 そして近づいてくると、倒れた僕の胸ぐらを掴み無理やりに立ち上がらせた。 『あなた藤島優羽よね?私芹沢琉鴉。って言ってもあなたのことだから認識してないわよね?』 そう言ってぱっと手を離す。 そのまま僕は地面に顔面をしこたまぶつけた。 『さっきから気になってたんだけど、あなたってマゾ…?』 大丈夫?とか何があったの?とかないのかこいつ…。 体中の痛みを今さら感じながら僕はこのワケのわからない女をただ見つめた。 雨が冷たかったのを覚えている…。
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