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「彼女はね、余りにも弱かったんだ。いや、彼女自身弱いと感じていただけかもしれない。この世界に存在すること、息をすること、笑うこと、泣くこと。世界の全てが辛くて辛くて仕様がなかった。だから切るのだ。この世界の不安、自分の弱さ、全てを左手首に封じ込めるために――」
「封じる?」
「彼女はリストカットという行為が、自身の精神の弱さを顕すと感じていた。けれどもリスカを行わずにはいられない。ならばリスカを行う、その行為によって自身の弱さを封印してしまえばいい。そうすれば、その行為以外の時彼女は強く在れると考えたのだろう」
「…………」
「強く有ろうとするために彼女は左手首を切るのだ――さて、彼女は強いのかな、弱いのかな」
そこでようやくヴィさんは私の目から手を離しました。寂れたビルの風景が目の中に飛込む刹那の直前、目蓋の裏の少女が笑った様に見えたのは、気のせいでしょうか。
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