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立ち止まってはいけない。
例えこの身を犠牲にしてでも、私はあの人を護らなければいけないの。
「ッ…」
霧の粒子が焔で焼かれるのを見た。
形勢は不利。――だからこそ、私があの人を守って差し上げなければ…。
血で染められた大地を、かすがは一心不乱に走り出す。
視界の悪い山間を、いとも容易く切り抜けていく姿は、一瞬の風の如く。
見破られる者は居ないかと思われたが、何の前触れも無く、目の前で金属音が飛び交った。
そしてそれは計算されたかのように足元へと突き刺さる。
「おっと。この先は通させないぜ、かすが」
「…!」
直後、地の底から声が聞こえたかと思えば、辺り一体に黒色の煙が立ち上る。
そこに現れたのは―――声だけで解る、在りし日の幼馴染。
「…そこをどけ」
「いやー、そりゃ無理な相談だなあ。任務サボることになるし」
「貴様…ッ!」
この緊迫した状況に1ミリも似合わない、間延びした声にかすがは苛立ちを隠せない。
こんな場所で時間を潰している猶予は、無いのだから。
「お前との馴れ合いに構っている時間は無い!早くどけッ!!」
「だからー。 通せないって言ってるでしょうが」
「私はお前みたいに任務のためだけに動いてるんじゃない。…あの人をお守りしなければならないんだ!」
「俺様にだって一応『護りたいもの』が在るんだけどね。 …アンタと同じように」
唐突に落ちた声のトーンにかすがは一瞬訝しがったが、首を振って余計な情念を払い除ける。
「お前がそこをどかないのなら斬るだけだ!」
「なら俺様だって容赦しないさ。アンタに俺様が殺せるかな」
「言われなくても殺ってやるッ!」
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