曇天、慟哭、罪と罰。

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  「いくら俺様が相手でも…油断しちゃ駄目でしょうが」   ぐらりとかすがが崩れ落ちるのを、佐助が抱きとめる。 その身体は、もはや肩で息をすることで精一杯だった。 急速に視界が暗く、狭く、小さくなって行く。目の前に居る、佐助の姿さえも霞んで見える。   こらえなければいけない。 例えこの身を犠牲にしてでも、私はあの人を護らなければいけないのに。 なのに。   ―――私も、…此処まで、か。   「ごめんなさ…い…謙信…様」   溢れ出す事を止めないかすがの血液が、佐助の指に、腕に、足に、そして地面に染まる。 遠くを見つめ続けるかすがの瞳は、半ば遠くの世界へと連れ去られているかの様だ。   「…アンタの眼には、軍神しか映ってないんだな」   その声がやけに寂しそうで、かすがは一瞬瞳を佐助に向けようとした。 だが、段々と死を誘う匂いに包まれて行くのをを感じる。   「俺が護りたかったのは真田の旦那だけじゃない」 「……」 「アンタもなんだよ、かすが」 「……!」   返事の代わりに、佐助へと伸ばされた腕。 しかし、その腕が、佐助の頬へ到達する前に。   ぱたり。   涙と共に、かすがの瞳の光が、静かに消えた。               「…こんな想いをするのは俺だけでいい」   自分が命を代えてでも護りたいと思う相手が、目の前で死に絶えて行く恐怖。 未来が、変えられないのならば。そんな辛い思いをもうさせなくて済むのなら。 決着をここでつけてしまいたかった。     武田軍の鬨の声が聞こえる。 紅蓮の旗が大地を埋め尽くし、揺らめいている。 やっと終わった、その安堵と、君を失った悲しみとが混ざり合って。 一片の雫が地面に落ちた。     空は曇天 風力は0
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