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「…おいおい、マジかよ」
「?!どうして…ッ」
先程まで仲間だと思っていた忍に刃を向けられるという忌々しき事態。
突然の事に、さすがに俺もかすがも思う様に体が動かなかった。
表情の伺う事が出来ない故に、いつ攻撃を仕掛けられるのかが解らない。
じり、と反射的に身体が退くのを合図に、目の前に居た筈の伝説の忍が攻撃を仕掛ける。
それからしばらくの記憶が、俺には、ない。
気づけば分身の術で、上田城へと続く森の中を木々にもたれ掛かるようにして歩いていた。
「は…っ、馬鹿だね、俺様も」
これも己の油断故。
緑であった筈の服は至る所で切り裂かれ、傷口から深紅に染め上げられている。
辛うじて急所は外している筈だが、それでも何箇所かの傷は深く、特に足に重症を負っているので、正直ゆっくり歩くのでやっとだ。
このまま旦那に会ったら何て言われるかな。
「あー畜生…、着けるかなあそこまで」
何時もであれば何て事無い、距離にすれば二十尺くらいしか無い様な道程さえも、今はまるで桃源郷を見ているかのようだ。
遠のきつつある意識を懸命に手繰り寄せて、一歩ずつ地を踏みしめる。
その足下には鮮血。
(やば…ちょっと持ちそうにないかも)
景色が霞む。色が消える。
叶うならば、最期は旦那の傍で、って決めてたのになあ、と己の不甲斐なさに自嘲する。
ふいに足の力が抜け、湿った地面に膝をつく。
ああ、もう本当に俺様死ぬかもしんない。
「旦那…こんなトコで、ごめん…」
闇に触れる一瞬前、誰かの暖かさを感じた様な気がした、のは。
気のせいか。
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