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「ん…」
暫し、静謐の暗闇の中、俺はただ身体を委ねていた。
ああ死ぬってこういう感覚なんだ…別に三途の川とか見えないじゃん、あー俺ずっとこのままなのかなーと、冷静なんだか現状に混乱してるんだか、…自分でも良く解らない。
世界は未だに黒ばんでいる。
ずっとこのままなのも退屈かもな、と丁度思い始めた時、わずかに暗闇に光りが射し始めた。
今までの暗闇に眼が慣れ切って居たから、一瞬の目映さに瞳が眩んだ。そして。
「…え、あ、あれ?」
そこにあったのは、もう何年も前から見慣れている上田城の天井があった。
そこで始めて、視界が開けたのは自分の瞼が開いたからだ、と自覚した。
「何だ…生きてたのか、俺」
はは、と何処からともなく溜息と安堵と笑いが入り混じった声が漏れる。
ぐい、と肩を起こすと、所々の怪我に包帯が既に巻かれて居て、丁寧な応急処置が施されている事に気付いた。
と同時に、部屋の襖がバタ―――ン、と大きな音を立てて開いた。直後、ビリビリと柱が振動を重ねる。
呆気に取られている俺を厭わず、旦那は俊足で俺の元へと駆けて来る。
「佐助エエエエエエエッ!」
「は、はいッッ!」
いつもの旦那とは違う威圧感と気迫に苛まれて、素っ頓狂な声を上げてしまう。
「この大 馬 鹿 者 ッ !!」
ありゃーこの流れは、てっきり頬をばーんと叩かれるのかと思ったら、待っていたのは熱い抱擁。
旦那、言動と行動が一致してないんですけど。
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