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『俺が、弁丸様を護ってあげるよ。もう、怖がる事が無いように』
『本当か、………佐助』
『必ず。 …だから、安心して』
それが、俺の意思で、初めて言葉を交わした瞬間だった。
それまでは、屈託の無い笑顔と無邪気さが鼻について、…でもそれが、ある意味羨ましかったりもして、という羨望と嫌悪だけが渦巻いていたから、正直言うと、旦那の事が好きでは無かった。
だけど、そんな俺の心持ちも知らずに、徐々に旦那の暖かさに触れてゆく度に、俺の中で氷の様に固まっていた気持ちを、知らない間に溶かしてくれていたのかも知れない。
そして、そこでやっと初めて、旦那の優しさと正面から向き合えた。
…
あれから何もかもが変わって、旦那は強くなって。たけど、やっぱり本質は変わってないみたいだ。
「…昔を、懐かしんでいるのか?」
「ん?ああ、まあね…でも、俺は今のほうがずっと幸せだよ。こうして、二人で過ごせるんだから。」
「佐助……」
「表向きは只の主従関係かもしれないけどさ、俺は旦那の事……、 え?言わなくても解ってるでしょうが。
あー、…解った!!言うよ! 愛してます!」
また有耶無耶で流そうとしたら上目遣いで睨まれつつ、言わないのはこの口か?!と頬をつねられたので、
半ば自棄になりながらも応えた俺に、旦那は満面の笑みを溢す。
…あー、こういう単純な所も、変わってないんだよね。昔と。
俺は胸中を吐き出した直後、羞恥心故に旦那から目を逸らす。
旦那はそれが面白い様で、ぐるりと俺の目線を追い、周りを囲うようについてくる。
それが何回が続いた後、俺は何とはなしに窓の外へと視線を投げかけた。
「あ、」
別に気を逸らそうと思って出た言葉では無かったけど、
その反応にやっと旦那は俺から目を逸らして、たたた、と畳の上を子供のように駆けて窓辺に近寄った。
「おお、誠に綺麗な星空でござるな!」
そんな無邪気な旦那を追いかけると、そこには曇りなき漆黒の空に、眩いばかりの数多の星々。
「佐助の帰りを、祝福しているようだな」
「お天道さんも昼間の時から協力してくれちゃった訳だ。有難いねえ」
「あの…森の中の星空を思い出すな」
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