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何度目になるだろう。飽く事なき嘆息を、彼はその整った唇から漏らした。
「そろそろ、限界ですかね……」
右腕の袖をめくり上げ、自身のそれを見下ろす。男性にしては細身のそこには、明らかに彼のものではないだろう歪(イビツ)な脈が、手首の辺りまで戒めるかのように絡みついていた。
指先は動く。握力も問題ない。“力”も出せる。だが。
「……ッ!」
それは半ば予想していた痛み。今しがた彼の右手の平で生じた冷気が、刹那にして掻き消えた。眉宇をひそめ、こぶしを握る。
肉体的な痛みではない。彼の出生上、病気や怪我はまず無縁だからである。かといって、心が痛む理由も今の彼には存在しない。
「もう少し、大人しくなさったらいかがです?今の貴方と彼女を会わせる訳にはいきませんよ」
誰もいない空間で、彼は自身の胸の辺りに左手を当てて話しかけた。応える声はない。
「せっかく私が均衡を保つ為の努力をしても、肝心の貴方の協力がないと全てが水の泡ですよ?人ならざる者とはいえ、私にも限界がありますから」
貴方の願いは叶わないままですよ。――そう最後に付け加えると、ようやく反応があった。
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