§1 記憶の奔流

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 でも何故だろう。誰の声か名前が出て来ない。とてもとても大切な人である事は解るのに。  「――!!」              強く強く、呼ぶ声。    ああそうか、と彼は思い出した。彼女だ。              「――……」              応えようとした声は声にならず、ほんの微かに空気が振動しただけ。              「――!」              三度目の彼女の声を確認しつつ、彼の意識はぶつん、と途切れる。              同時に、記憶の尾が名残惜しそうに、彼の脳裏を撫でてそのまま沈むように消えた。              無意識に閉ざされ、危うく倒れかけた彼はそれを包み込むように支え、受け止めた彼女の細腕の温もりに気付かないまま眠る――――                           §1 記憶の奔流 fin
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