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僕はその日記帳にどんなことが書かれているのか知らない。 何度か先生に見せてほしいと頼んだことがあったけど、断られてしまっていた。 そんなこともあって僕は、あの日記帳を開くことができなかった。 彼は渋々といった表情で日記帳を手に取った。 ほんの一瞬、触れた彼の指が思ったよりも暖かくて驚いた。 初めのうちはパラパラと眺めるだけだった彼の目の動きが、日記帳の半分を過ぎた辺りで変わった。 一字一字、丁寧に文字を追い始めた。 僕は彼の姿を、すっかりと冷めてしまったホットコーヒーを飲みながら眺めた。 髪の毛が太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。 少し長めの前髪が、引力を持っているかのような漆黒の瞳を覆っている。 日記帳を捲る指は薬品荒れした僕の指と違って、短く切りそろえられた爪が印象的な長い指だ。小指の爪だけが黒いマニキュアで彩られていた。 僕と恐らく同年代であろうに、彼はアクセサリーの類いを一つもつけてない。唯一しているのは随分と年季の入ったアンティークっぽい腕時計だけだ。 流行やブランドに疎い僕にはどこのメーカーなのか分からないけれど安物ではなさそうだ。
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