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一応俺もアンダーに着替えると、隣のロッカーにいた笠井が話し掛けてきた。
相変わらず間延びした話し方だ。苛々してる時は本当にいらつく。けど笠井はいつも馬鹿やって盛り上げてくれる奴だった。
「なぁ~、春休みもあと僅かなんだけどさ~、」
「うん?」
笠井はそこで小声になる。グローブで口を隠して俺に近付いた。口が隠れても目は笑ってニヤついていた。
「新任のセンセ、来るみたいだよ~。しかも野球経験あり」
「えっマジ?」
「マジだって!だって尚チャンから聞いたも~ん」
尚チャン、というのは尚久教頭先生のあだ名だ。生徒に優しく、親身に接してくれる「イイ先生」なので親しみを込めてそう呼ばれている。
「いや、俺はバド部の鷹山が監督だと思うな。だってアイツ高校時代に野球やってたんだって」
後ろから入ってきたのは速水。笠井の小声はたいして意味がなかったようだ。
「鷹山~!?あのデブが~!」
鷹山先生は体重三桁いきそうなデ…巨漢だった。笠井は何を想像したのかツボにはまったらしく笑いがとまらない。
逆に馬鹿にされたと思ったのか速水は顔を赤くして、監督に体重は関係ない!と熱弁している。
俺はというと、なぜか、こんなやり取りが無くなるのは寂しいと一人感傷に浸っていた。
まだ終わったわけではないのに。引退したとしてもこの繋がりが消えるわけではないのに。
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