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「若狹は八幡を追ってこの学校に入ったんですよ…」
まだ語り続ける若狹の前にあらわれて松尾が監督に言った。
みんなもうんうんと頷く。
「えと、俺も副キャプテンで、ファーストやってます松尾四郎です…」
若狹の八幡狂は今に始まった事ではないので扱いは慣れている。放っておけばいい。
冷静なあいつが唯一熱くなれるものなのだ。俺達も無下にする事はない。だが、あきた。黙っていれば平気で日が暮れるまで語られそうだ。
しかし一番恐ろしいのは褒められている八幡自身がイマイチ理解していない事だった。
松尾に続けて次々とみんなが自己紹介する。
「サードの蘭大九郎です」
「セカンド~笠井敏希っす~。一番足が早いっす~。あと速水は足が遅いです~」
「う る さ い!」
「いてっ」
速水が笠井の頭を再びひっぱたく。
「ライト、速水大です」
あだなはダイダイだよ。八幡が笑う。
「レフトの五十里晴太っす」
「キャッチャーの白野です」
三年はこれが、全員、だ。
二年生も自己紹介を終える。
三年が10人、二年が18人の比較的小数の部員達。俺は小数が弱いとは思わない。ハングリー精神はまだ弱い。だけどこれが俺達最後の夏なんだ。絶対に、生き残ってやる。
自己紹介を終えると監督はもう一度、みんなを見回す。
「あらためて言う。俺は榊透。実は監督としてつくのは初めてだ。だけど、俺は、君達を勝たせるよ」
勝たせる。本当に?
「だけど俺がどんなに頑張ったって、君達が頑張ったって、一人でもやる気のない奴がいたら、…無理なんだよ」
何となく、空気が張り詰めた気がする。誰一人として微動だにしない。
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