喪失-Mistake because of love-

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雨音が耳をつんざく。 ズキズキと鈍く痛む腰が、昨夜の出来事を物語っていた。 俺は、窓の向こうに見える景色を、ただ呆然と布団に入ったまま見つめていた。 外は慌ただしく動いている。 雨にかき消されながらも、鳥の声が微かに聞こえる。 ただ、いつもと違って見えるのはなぜだろう。 世界は、何ら変わらない。 変わってしまったのは、俺だ。 何かをなくしてしまった気がする。 それも、とても大切な。 『あっ…痛っ……んんぅ…やぁ……』 『体は正直に喜んでいるが?』 『い、やぁ……れい、りっ…ひんっ……』 この行為を、人々は何と言うのだろう。 もしこれを、性交と呼ぶのなら、俺は何か勘違いをしていたことになる。 性交とは、多少なりとも愛がある行為だと思っていたから。 あれはきっと、凌辱。 職業だ、そう言われてしまえば、言い返すことは出来ないけれど。 「雪乃、起きている?」 「え……はい。」 俺を心配して部屋を訪れてくれたのは、この店で一番人気のある手鞠さんだった。 見目麗しい彼は、男女問わずその魅力に引き込んでしまう。 この人のどこか神秘的な眼差しが、俺は好きだった。 「藤子さんから、昨日のこと、聞いたものだから。」 痛む?と優しく触れられたとき、昨日の澪莉の手つきを思いだし、思わず身震いした。 すかさず謝る手鞠さんは、俺の頬をその冷たい指で撫でた。 「何か、あった?」 「知り合い…だったんです…昔、大好きだった人で……」 ほろほろと涙が流れた。 手鞠さんは、俺の肩を引き寄せて、よしよしと宥めるように頭を擦る。 「その人は多分、もう一度雪乃の所へ来るよ。」 「え……どうして…?」 「藤子さんの話だと、相当な金を積んだようだから。他の男とはヤらせないでくれ、そう頼み込んだそうだよ。」 あまりの驚きに、俺は目を瞬いた。 俺の無様な姿を見に来たのかと、思っていたから。
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