無 色

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  荒れ果てた屋敷に住みついた物好きな人物。 セツの呼び声に気がつき、顔を向ける。 薄い縁なしメガネをして、優しく微笑む、二十代半ばを過ぎた青年だ。 セツは彼をスノと呼んでいた。 いつも白い服ばかり着ているのと、名字が須能(スノウsnow)とかけて、セツは親しみを込めてスノと名付けた。 年上をあだ名で呼ぶのはどうだろうと思ったが、「じゃあ僕はセツくんと呼びますからおあいこですね」と訳の分からない理屈で、互いの呼び方は現在に至る。 「セツくん、いらっしゃい」 「そこ、なにかあるの?」 「えぇ、スノードロップの花が咲いたんですよ」 「スノードロップ?」 スノがしゃがんでいた場所に眼を向けると、そこには白い小さな花が咲いていた。 釣り鐘状の顔を下に向けた、街灯のようなしとやかな花である。 「今年一番に咲いたコなんですよ」 「へぇ、こんな寒い時期に咲くなんて珍しいね」 「そうですね。きっと、雪が降る気配を感じ取ったのかもしれませんね」 「え?」 首を傾げた。  
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