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「あ、早く行かなきゃ。あたし先に入るね」
久美は慌てた様子でそう言うと、
「おはよ~ございま~す」
元気よく挨拶をしながら店の中へ入って行った。
どうやら着替えられる場所が1ヵ所しかないらしい。
久美がいつも早めに来て、慶太が来る前に着替えをすませる……というのがいつもなのだろう。
しばらくすると、着替えを終えた久美が出て来て、理子を手招きをした。
理子は一度深呼吸をすると、再び息を吸い込み。
「おはようございますっ!」
久美に負けないぐらいの元気のよさで店内に突入した。
キッチンの中で麺を茹でていた店長が、目を丸くしてこちらを向く。
「うい~っす。なんだ慶太、今日はずいぶん元気がいいな? いつもは死んだクラゲみたいなオーラが出てんのに」
ヒドい言われようだった。
しかし、普段の慶太を見ていれば、そう言われるのもどこか納得できてしまう。
理子は笑ってごまかしながら更衣室に入ると、素早く着替え始めた。
半袖のTシャツの上に、『あじさい亭』と書かれたポロシャツをかぶる。
さらに腰に巻く短めのエプロンを付けて、準備完了だ。
「出たら何すればいいんだろう」
しばし考え込む理子。
「ま、出てから考えればいっか。久美ちゃんいるし」
しかし、すぐに顔を上げると、何のためらいもなく更衣室のドアを開いた。
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