理子の戦い

7/11
285人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
「あ、早く行かなきゃ。あたし先に入るね」 久美は慌てた様子でそう言うと、 「おはよ~ございま~す」 元気よく挨拶をしながら店の中へ入って行った。 どうやら着替えられる場所が1ヵ所しかないらしい。 久美がいつも早めに来て、慶太が来る前に着替えをすませる……というのがいつもなのだろう。 しばらくすると、着替えを終えた久美が出て来て、理子を手招きをした。 理子は一度深呼吸をすると、再び息を吸い込み。 「おはようございますっ!」 久美に負けないぐらいの元気のよさで店内に突入した。 キッチンの中で麺を茹でていた店長が、目を丸くしてこちらを向く。 「うい~っす。なんだ慶太、今日はずいぶん元気がいいな? いつもは死んだクラゲみたいなオーラが出てんのに」 ヒドい言われようだった。 しかし、普段の慶太を見ていれば、そう言われるのもどこか納得できてしまう。 理子は笑ってごまかしながら更衣室に入ると、素早く着替え始めた。 半袖のTシャツの上に、『あじさい亭』と書かれたポロシャツをかぶる。 さらに腰に巻く短めのエプロンを付けて、準備完了だ。 「出たら何すればいいんだろう」 しばし考え込む理子。 「ま、出てから考えればいっか。久美ちゃんいるし」 しかし、すぐに顔を上げると、何のためらいもなく更衣室のドアを開いた。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!