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僕は、自分の両手を眺めました。
確かにはっきりと、彼女の細い首の感触が残っています。
「うそだ!
うそだうそだうそだ!
違う!僕はやってない!
違うんだ
彼女に思い出してもらい
たくて。うそだ!」
僕は急いで服をを来て、彼女の部屋を飛び出しました。
マンションから自分のアパートの部屋まで、僕は全速力で走りました。
部屋入って、水を飲み、思い返してみました。
間違いなく。僕がやったのです。
今でも、彼女の首の感触と、冷たい唇の柔らかさが僕の全身によみがえります。
今、意外に冷静なのが不思議です。
今なら、全てを理解することができると思います。
どこまでが本当の自分の記憶で、どこからが他人の記憶なのか。
僕は、初めてあの老人の店に行った日、冗談半分で、他人の記憶を買いました。
それがきっと『彼女との出会い』です。
僕はその想い出の続きを味わいたくて、それから幾度かに分けて他人の想い出を買い続け、自分の想い出に変えていったのです。
僕の本当の私生活と、彼女との想い出が入り交じっているのはそのためでしょう
そして、完全に自分の想い出に変えた僕は、その本当の想い出の持ち主に成り代わってしまったのです。
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