6, アンインストール(長)

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「なんだ?」     警部も険しい表情になり、若い男へむけ身を乗り出した。     「そこに書かれている『川奈 恵美』という女性の遺体はたしかに、彼女のマンションで発見されました。全裸でベッドに寝かされていたようです。そして首には手で絞められた跡がクッキリと・・・」     若い男は表情を崩さず話続ける。     しかし、警部がそこに口を挟んだ     「それはここに書かれている通りだ。何も引っ掛かる必要ないではないか?むしろ、この『遺書』の裏付けとも言えるぞ」     「はぁ、確かに・・・」   しかし、若い男はまだ何かを気にしている様子である。   「なんだ、何かあるなら早く言え」     「はい、筆跡鑑定の結果この遺書は彼の字で間違いないようです。ただ、不明な点が2つありまして。」     「不明だと?」     「この、最後の彼の名前のを書いたと思われる『上田 雅人』なのですが、彼は、上田 雅人ではないのです。彼はの本名は、『吉岡 栄治』といいます。」       「なんだとぉ?」         「そして、もうひとつ。川奈恵美の身体中に残されていた指紋も、彼、『吉岡』の物とは異なりました。そして彼女に残されていた指紋は『上田 雅人』の物と一致しました。」     「おい、どおなっているんだ?それで、『上田』の身柄は抑えたのか?」     「はい、先程・・・しかし、彼は事件のことを全く覚えていないようです。」     「そりゃ、否認してるってことだろ?証拠は揃ってるんだから、自白させるのも時間の問題だろ」         「それが・・・彼は、精神鑑定の結果、記憶障害だそうです。ようするに、本当に覚えていないんです」     「本人が全く覚えていなくて、あかの他人がはっきり覚えているなんてあり得るかよ!この2人の関係を洗い直せ!絶対どっかで繋がってるはずだ!」       「はっ、はい!」   警部の怒鳴りに弾かれるように、若い男が慌てて部屋から出ていった。     この世に存在しないはずの路地を探すためである         アンインストール【完】
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