7, 天才発明家『三浦』

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          ピコーン                   「で、今回はなんなんだ?」   俺は、三浦に尋ねた。   三浦の見つめる先には、卵形の物体がある。   もしこれが卵だったら中から出てくるのはゾウの幼虫ではないかと思えるくらいの大きささである。   勿論、俺はゾウが卵や幼虫から育つものではないことは知っている。   ただ、卵の大きささを表すならゾウの卵くらいの大きささだというだけだ。   その物体は長手方向を縦にして三脚のようなものに支えられていて、それの上部から何本ものコードが四方八方に伸び、それぞれ部屋の四方の壁に繋がっている。   例えるなら、カチッとタイプのガスの元栓のような部分にコードが刺さっていると言えばイメージしてもらえるだろうか。     部屋の壁には所々に押しボタンのような四角い出っ張りがあり、時々そのボタンがピコピコと赤や青の光を放っている。     部屋全体が卵を育てるための装置のように思える。     三浦は俺には振り向かず、ゾウ卵を見つめたまま答えた。   「今回、君達に集まってもらったのは、成紀の瞬間に立ち会っていただこうと思ってのことだ」     三浦が偉そうな口調で話すのはいつものことだ。      「集まってもらったって?・・・ 俺しかいないんだけど?」   俺は、真顔で答えた。     「あと4人に声をかけたんだが・・・皆、遅いな」       「お前が来いと言って指定した午後2時からもう30分も過ぎてるぞ、遅いって言うより、来ないってことだろ?」     俺は後の4人が誰なのかを知っている。   しかも、その4人が間違いなくここへ来ないことも知っている。     「30分だと?本当か?」   三浦は驚いたように、ようやく俺に向き直り聞き返した。     「ああ、本当だよ。ほら」     俺は自分のつけている腕時計を三浦に向けてやった。     「なんだ、時計か。私が作ったこの部屋はなぜか時計を狂わせるらしい。私も何度か時計を持って入ったが、全部、狂ったんだ。どんな高性能な時計でもこの部屋の中では無意味なんだよ」   三浦はサラッと言った。     「なぜだ?」   と、問いかけた俺に三浦は     「知らん」     とだけ答えた。       「お前が作った部屋なんだろ?」       「ああ、でも時計が狂う理由はわからん。それにそんなことはどうだっていい」             どうだっていいらしい。
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