対峙。

2/22
前へ
/412ページ
次へ
「ゼオ、くん……」  金色の髪の少女・シエル=エクエルージュは机に突っ伏したまま、一人泣いていた。ゼオが攫われた――そんな衝撃的な知らせは、父親伝に聞いた。  初めて彼を見たのは入学式だ。まだ成長期にある年齢の中で、一人小さい少年がいた。物事を斜めから見ているような、そんな眼差し、そして時折見せる哀しげな表情。  彼がクラスで浮いていることなど気にしなかった。ただ、彼を知りたかった。分かりたかった。何度冷たくされても諦めなかったのは、そんな思いがあったからだ。 「お願いだよ、戻ってきて……」  自分では何もできない。中流貴族の中でもより上流に近いエクエルージュ家、その令嬢たる自分の部屋の外にはガードマンがおり、必要時以外は外出不可、また外出のときも同伴――ということになっている。  と、乾いたノック音が数回響いた。 「シエル」 「パパ……」 「ゼオくんのことが心配かい?」 「……うん」 「大丈夫だ、きっと先生方が何とかしてくださるよ。信じて待っているんだ、いいね?」  父親はそれだけ言うと、部屋を出て行った。そうだ、彼は戻ってくる。 「戻ってきたらこの前の料理の感想、聞かせてね」  彼女はぽつりと呟くと、僅かに笑みを零した。
/412ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2648人が本棚に入れています
本棚に追加