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「ゼオ、くん……」
金色の髪の少女・シエル=エクエルージュは机に突っ伏したまま、一人泣いていた。ゼオが攫われた――そんな衝撃的な知らせは、父親伝に聞いた。
初めて彼を見たのは入学式だ。まだ成長期にある年齢の中で、一人小さい少年がいた。物事を斜めから見ているような、そんな眼差し、そして時折見せる哀しげな表情。
彼がクラスで浮いていることなど気にしなかった。ただ、彼を知りたかった。分かりたかった。何度冷たくされても諦めなかったのは、そんな思いがあったからだ。
「お願いだよ、戻ってきて……」
自分では何もできない。中流貴族の中でもより上流に近いエクエルージュ家、その令嬢たる自分の部屋の外にはガードマンがおり、必要時以外は外出不可、また外出のときも同伴――ということになっている。
と、乾いたノック音が数回響いた。
「シエル」
「パパ……」
「ゼオくんのことが心配かい?」
「……うん」
「大丈夫だ、きっと先生方が何とかしてくださるよ。信じて待っているんだ、いいね?」
父親はそれだけ言うと、部屋を出て行った。そうだ、彼は戻ってくる。
「戻ってきたらこの前の料理の感想、聞かせてね」
彼女はぽつりと呟くと、僅かに笑みを零した。
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