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「ん?なんだ??」
言いながら、山田を伺うと、山田は額から汗を流し、俺ではなく“ある方向”を向いていた。
俺も視線で追い掛ける。
「……友人として、武流に一つ忠告しておくが……。」
山田の、妙に真剣で、なぜか恐怖を含んだような声を聞きながら、山田が見ていた“ある方向”に、俺も行き着いた。
そこには――。
「……武流、本気で逃げたほうがいいぞ……?」
――阿修羅がいた。
俺の視線の先にいる阿修羅……じゃなく、姫は、一見すれば普段と変わらない、淡い微笑を浮かべているだけ。
……なのに。
なぜか、俺の血液が一瞬で凍ったような気がした。
確かに、姫は笑っているだけ。でも、目は全然笑っていない。おまけに、姫の背後には、はっきりと阿修羅の残像が見えた。
それは周りの人間も同じようで、穂村はいつの間にかガタガタと震えながら姫と距離を取っているし、道行く人達は、姫の振りまく怒気を敏感に感じ取ったのか、姫を極端に避けて歩いていた。
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