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その姫が、ゆっくりと、しかし確実に、俺に歩み寄ってくる。
……右手に、広辞苑を持って。
姫は、なぜか怒っている。それは、紛れもない事実。
……でも、なんで……??
疑問に思った、と同時に。
「…………あ。」
俺は、姫が怒っている理由を悟った。
数分前の出来事がフラッシュバック。
――アマミコは、俺になにをした?
――俺の頬っぺたに、なにをした?
――……………ほっぺに……チュー……。
気付けば、姫はすでに目の前にいた。
「ひ、姫っ!待て!!アレは不可抗力であって、俺に非はないと思うのだが、これいかに!?」
必死に弁明するが、姫は無言で、ゆっくりとした動作で広辞苑を頭上へ持ち上げた。
その動きが、俺には罪断の刃に見えた。
額を流れる一筋の汗は、暑さのせいだと思いたい。
「……武流さんの……。」
徐々に、姫の表情が怒りへと変化していく。と同時に、背後に見える阿修羅が大きく、まるで俺をまるごと飲み込むかのように見えた。
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