[第一章]

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その姫が、ゆっくりと、しかし確実に、俺に歩み寄ってくる。  ……右手に、広辞苑を持って。  姫は、なぜか怒っている。それは、紛れもない事実。  ……でも、なんで……??  疑問に思った、と同時に。 「…………あ。」 俺は、姫が怒っている理由を悟った。 数分前の出来事がフラッシュバック。 ――アマミコは、俺になにをした?  ――俺の頬っぺたに、なにをした?  ――……………ほっぺに……チュー……。  気付けば、姫はすでに目の前にいた。  「ひ、姫っ!待て!!アレは不可抗力であって、俺に非はないと思うのだが、これいかに!?」  必死に弁明するが、姫は無言で、ゆっくりとした動作で広辞苑を頭上へ持ち上げた。 その動きが、俺には罪断の刃に見えた。  額を流れる一筋の汗は、暑さのせいだと思いたい。 「……武流さんの……。」  徐々に、姫の表情が怒りへと変化していく。と同時に、背後に見える阿修羅が大きく、まるで俺をまるごと飲み込むかのように見えた。
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