呪われた記憶

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病院を出て、歩いて約15分後。 ごく普通の二階建ての家が見えてきた。 アメリアは鍵を開け、いち早く家に入り、扉を支えた。 「どうぞ」 四人は「お邪魔します」と言って入った。 それからアメリアはリビングに四人を適当に座らせ、そこに近いキッチンでお茶の用意をし始めた。 「…んなもん適当でいいのに」 ルジュールが呟いた。 「煩いわね!性格上きっちりしてないとやなの!」 「これだからA型は!」 二人がギャーギャー言い合っている中、マイルズが本題に入った。 「…では…聞かせてもらおうか。 プチ・エトワールの鍵の人物、知っているんだろう?」 「…………。 あぁ、俺の息子だ」 「!?」 彼に四人の視線が集まり、お茶の用意をしているアメリアまでもが振り返った。 「…お前の?」 「あぁ。だがこれはここから説明しないと分からねぇかな…」 ネロはそう言うと、右目の眼帯を外した。 「…っ!?何これ!左右で色が違う!」 ベルデが驚いた。 「これは…呪いだ。クランクシュヴァルツ家の前当主、ディオス・クランクシュヴァルツによる…な」 「…で、何の呪いなんだ?」 ルジュールが訊いた。 「…記憶の呪い…それのせいで、俺は記憶の一部を無くしてるんだ」 「……それが、息子さんに対する?」 ベルデが訊いた。 「あぁ。思い出はちゃんとあるんだ。だが…」 ネロはそこまで言うと、右手で右目を覆い、俯いた。 「もう名前も顔も、姿も、声も…全く思い出せねぇんだ……」 部屋の中が一気に重い静寂に包まれた。 そして数十秒間、それ以上は誰も何も質問できなかった。
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