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「村岡さーん。」
「どうした、山平。」
「どうしたもこうしたも。移動するって聞いて。またえらい田舎に行くんですね。単身赴任になるんですか?」
「まぁなあ。娘も高校があるし、家族ごとは無理だな。」
「でも、村岡さんの故郷の近くですよね。ゆくゆくは帰りたいんでしょ?」
「そのつもりで出していた移動願いがこんなときに叶ってしまったんだよ。」
「こんな時?」
「…未解決事件の途中じゃないか。」
鉄格子窓とは違い、警察署の窓は大きく、視界良好だった。昼の3時、休日出勤。署内に人は少なく、閑散(かんさん)としていた。
「でもアレは、映像から見ても川知南美ですし。確かに証拠は弱いですが。精神鑑定が完全に終われば決まりですよ。村岡さんがいなくなっても後任に誰かつきますし…。それよりただ、寂しいです。俺が。」
村岡は彼が刑事になって初めて指導を仰いだ男だった。山平は静かに村岡を見た。
「でもなあ、山平。」
「なんですか?」
「確たる証拠が無いなら。……犯人とは言えないんじゃないか。」
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