少女 A

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―――――――――― 「川知さん。お天気いいですよ。お散歩いかがですか。」 「じゃあ、お願いします。」 この病院は精神科患者専用の庭がある。中庭で逃げ出せないようになっているし、散歩するには主治医の許可印がいる。時間も決まっていて、何人かが一度に散歩する。見張りの看護士を付ける必要上、患者一人に看護士一人はとても人出が足りないので、一度に済ませてしまうためだ。 私はあの日以来静かに精神病患者を演じている。今ではこうやって散歩も許可がでる。 「ではみなさん、ごゆっくりね。」 中庭に着けば皆自由だ。今日のメンバーは軽度精神疾患者ばかりだからか、看護士も付き添いは一人だけで、庭の入り口にあるベンチに座って患者の一人と話をしている。 中庭といえど庭は広い。散歩ができるくらいなのだから。しかし入り口は一つしかない。だから看護士は入り口さえ見張っていれば、まず、逃げ出すことは不可能なのだ。 私は庭の奥の方へと向かった。一人になりたかった。  
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