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ルイーゼはしばらくシオンの後頭部を見つめていたが、やがてベッドから降りると部屋を出ていった。
ドアが閉じてしまえば、部屋にはシオンひとり。
青い瞳は虚ろに開かれ、視線は家具の間をふらふらと彷徨っている。
その青は紺碧。
深い海の色をしていた。
なんとか上体だけでも起こそうと手を着くが、腕に力が入らない。
かろうじて胸が少し持ち上がるだけで、すぐに突っ伏してしまう。
くそっ。
声に出さずに毒づき、シオンは歯噛みする。
思うように動かせない身体に対する苛立ち。
状況がわからないことに対する不安、込み上げる焦燥。
もし自由に身体を動かせていたら、きっと何かに八つ当りしていただろう。
でも、できない。
このまま、寝たきりのまま介抱してもらうというのか?
赤ん坊みたいに?
その場面を思い浮べ、シオンは自嘲気味に顔を引きつらせた。
冗談じゃない。
「起きてる?」
パタンと音がして、ルイーゼが戻ってきた。
シオンが首の向きを変えるのを制止し、ぐるりと回り込んでシオンの目の前に立つ。
「おなか減ったでしょ?」
手のおぼんには、真っ白い湯気を上げる皿が乗っている。
トマトと豆のスープだ。
若干抵抗はあったが、今にも鳴きだしそうな腹の虫を抑えるために仕方なく。
口に運び(運んでもらい)、味わう間もなく口を開く。
「薄い」
「……え」
「トマトを半分と、塩をもう一杯……いや、二杯だな。ハーブはもっと少なめにしないと。何の味だかよくわからなくなってるぞ。それと、あるなら黒胡椒も少し加えたほうがいい」
目をぱちくりさせるルイーゼ。
しばらくポカンとしていたが、ふと我に返った。
「あなた、り、料理人?」
「ただの旅人だ」
――今はお尋ね者、だけどな。
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