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ベッド脇のテーブルには、すっかり空になったスープの皿。
ルイーゼはベッドに腰掛けると、うとうとしているシオンに話し掛けた。
「ねぇ。シーリィ、って誰?」
シーリィ。
シオンの眠気を吹き飛ばすには、それで十分だった。
目を見開き、ルイーゼを食い入るように見つめる。
「なんでそれを……」
「自分で言ってたじゃない。あれ、寝言だったの?」
「……あの夢か」
掴めなかった小さな手。
もしもあの時、手を掴むことが出来ていたら、未来は変わっていたかもしれないのに。
シーリィ。
今はどこで、何をしているのだろうか……?
「妹を捜してるんだ」
「妹さん……?」
「小さい頃に両親が死んで、俺たち兄妹は奴隷商人に売られてね。生き別れたんだ。今じゃ、生きてるかどうかもわからないけどな」
一通り吐き出した後、シオンは一息ついた。
だが、ルイーゼは少しの休憩さえ与えない。
「顔はわかるの?」
「いいや」
髪は金色だったような気がする。
でも、瞳は何色だ?
別れたのは、もう十五年も前のことだ。
顔形なんてわかるわけがない。
「名前しかわからないのに、どうやって捜すつもり?」
「それは……」
シオンは身体の位置をずらし、左肩をルイーゼに見せた。
肩と二の腕の間に翼竜の刺青(いれずみ)が施されている。
「俺の家系では、赤ん坊が生まれたら腕に竜を彫るらしくてね。男は左、女は右に」
「ふうん……。人捜しだったらこんな西の端っこより、王都に行ったほうがいいんじゃないの?」
ルイーゼの意見はもっともだが、シオンにはレシェルに行けない理由があった。
「いや……いいんだ」
余計な詮索をされることを恐れ、シオンはそれっきり口をつぐんでしまった。
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