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竜は夢を見た。
翼を広げて風を抱き、大空を自由に駈けた日々を。
鳥と戯れ、星の歌を聞く、悠久にも似た時間を。
それは、遠い、遠い昔。
僕は今でも、飛べるのだろうか?
過去に思いを馳せると、懐かしい風景が浮かび上がってきた。
その奥に見える人影は。
昔、むかし。
共に世界を回った五人の旅人たちがいた。
ヒト、精霊、半魔物。
種族は違えど、彼らの目指すものは同じだった。
地上に甦った海底都市。
彼らは魔王を打ち倒し、英雄となり、そして――
……そして?
その後、どうなった?
長い微睡みから覚め、竜は灰色の大地の端に立つ。
最後に地上を眺めたのは、いつだっただろうか。
それすら思い出せないほどに、長い時間(とき)が過ぎていた。
果てしなく続く雲海。
その雲の切れ間から、地上の様子が見える。
こまごまとうごめいているのは、神が愛した“ヒト”という生き物だ。
ヒトは小さくて、か弱くて、どうしようもなく儚いけれど、優しさとそれに見合う強さを持っている。
それは、今も昔も何ひとつ変わらない。
風が吹き、竜は首をもたげた。
聞こえたのだ。
遥か昔に眠りについたはずの、主人(あるじ)の呼び声が。
風は竜に囁きかける。
死神が目覚めた、と。
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