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「へぇ、シオンっつうのか。ヴュステ=ロッサにようこそ。今日からおめーもここの一員だ。おーお、そんな顔すんなって。とって食やしねぇよ。ほうら、さっさと宴始めっぞ!」
この声は……賊長?
「……怖いのよ。貴方がどこか遠くに行ってしまいそうで……。だからお願い……」
フィリア……?
「賊長殺しの犯人が、まさかおまえだったなんてな。この裏切り者め!」
……違う!
俺は何も知らない!!
「おにい、ちゃ――」
!!
追い掛けてくる、大人たち。
掴めなかった、小さな手。
自分を求める、幼い声。
それらから逃げ出すように、男は目を覚ました。
心臓は早鐘を打ち、堅く握り締めた拳は汗ばんでいた。
呼吸を落ち着けるため、男は全身の力を抜いた。
なにやら、柔らかいものに顔が沈んでいる。
これは枕か?
そっと薄目を開けると、白いシーツが見えた。
どうやら、うつ伏せでベッドに寝かされているらしい。
……ん?
……ベッド?
状況がよく呑み込めないまま、男は首を横に向けた。
寝呆け目は一変。
瞬時にして男の表情が強張る。
すぐ目の前に、女の寝顔があったのだから。
男は思わず身を反らす――が、背中に走った激痛により、声にならない叫びを上げた。
再び枕に顔を埋め、ぷるぷると身を震わせた。
「ふああぁ……」
真横から聞こえた呑気な欠伸。
男は涙目になりながら、ぎこちなく首を動かした。
女はむくりと起き上がり、口に手を当てて欠伸をしている。
なんなんだ、この女は!?
「あ、おはよう」
ぱっちりとした緑と青の瞳が、柔らかく男に微笑みかけた。
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