砂塵の都の来訪者

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朝の陽射しが、室内を明るい色に染め上げる。 ベッド、本棚、テーブル、椅子、と、家具はすべて白で統一されている。 窓は二つあり、部屋の南側にある窓には、白麻のカーテンが掛けられていた。 もう一方の窓から降り注ぐ光が、女の輪郭を浮かび上がらせる。 ゆったりと背中に垂らしたくるみ色の髪。 そのうちの一房を三つ編みにして、くるりと頭に巻いている。 左の瞳は、深い深い泉のような、とろりとした緑色。 右の青い瞳は、珍しい青色をしていた。 どことなく陰影のあるその色は、まるで青空のような。 同じ青でも、海色の瞳を持つ者は多いが、空色の瞳を持つ者は稀である。 男は、左右で瞳の色が異なる人間を見たことがなかった。 それゆえ、女の顔から目が離せないでいた。 それは畏怖でも、好奇でもない。 ただ単に、自然をそのまま切り取ったような、綺麗な色をした瞳を見ていたかったのだ。 しかし、寝たままではよくわからない。 もっとよく見ようと、男は顔を上げようとした。 「……ッ」 「起き上がっちゃダメよ!」 ほんの少し身体を動かすだけで、背中を激痛が駆け抜ける。 顔をしかめる男に、女はぐいと顔を寄せた。 目鼻立ちに幼さが残るのを見ると、まだ少女といってもいいのかもしれない。 「それ、背中何針縫ったと思ってるの?」 男は、じいっと深緑と青空の瞳に見入る。 声なんて届いていない。 少女は怪訝そうに首を傾げながら、自分の頬を触った。 「……顔、何か付いてる?」 「……え? あ、いや……」 そこでようやく、男は話し掛けられていることに気付いた。 それと同時に、質問が次から次へと湧いてくる。 少女にあれこれ言われる前に、男は尋ねた。image=207654802.jpg
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