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しばらく安と俺の間に沈黙が流れた。多分安は、俺が口開くのを待っててくれてたんやと思う。安はそうゆう奴やから。
「安…俺な、さゆみの事泣かしてもうてん…」
「そうなん?」
「おん、…俺最低な事言うてもうた」
俺はまた、さっきの喧嘩を思い出して胸が締め付けられた。そんな俺を見て安は…
「さゆみちゃんがたっちょんに八つ当たりしてまうのは仕方ないん、ちゃうん?」
って俺の顔を覗きこんできた。
いやいや、仕方ないって…
俺は不満そうな顔で安のことを見た。
「だってたっちょんはさ、辛い時に頼れる親も愚痴聞いてくれる友達もすぐ傍におるやん?」
「…?おん、まぁ」
「けどさゆみちゃんはさ、東京出身やから、大阪に愚痴聞いてくれる友達も頼れる親もおらん訳やんか」
「…」
「大阪でさゆみちゃんにとって、頼りに出来るのはたっちょんしかおらん訳やんか。八つ当たりすんのも、それがさゆみちゃんの精一杯のたっちょんへの甘えやったんちゃうかな?」
安は最後まで言い終わると
「…なっ?」
て優しく笑った。
「安…」
「んー?」
「俺アホやったわ…」
「お、おん?」
今さら気付いた…。さゆみの寂しさ。精一杯の俺への甘え…
確かに俺やって、いきなり誰も知らん、会う人会う人が初めましての東京なんかに一人で行けゆわれたら不安でいっぱいなるし、ましてやそこで住むなんて…ありえへん。周りが標準語ってだけでも正直キツいのに。
けどそんな中、さゆみは俺んとこに来てくれた。友達もおらん大阪に、たった一人で来てくれた。
俺は何してんねん…。なんでもっと早くに気付いてやれんかってん。
「俺…行ってくる」
俺はそう言うて立ち上がった。
安は、まだどこに行くかなんて言うてへんのに
「いってらっしゃい」
って笑顔で手、振ってくれた。
安は本間に良い奴や。だって俺が“ありがとうな”て言うたら
“俺何もしてへんよ”て笑っとった。
勿論、行くとこなんか一つしかない。
俺は安と別れて急いで二人の部屋に戻った。
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