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「以外な場所で以外なクオリティの物に出会った」
というのが率直な感想だった。
その,ピンク色のクリームが一面に塗られたケーキは,精神を病んだ患者が作った物とは思えない程に美しい見た目をしていた。
砂糖で作られた,水色と薄黄緑の小さな花がケーキ上面から溢れ落ちるほどに飾られており,更に注意深く見てみると,その花達は1つ1つが違う形をしていた。
「アザミ,カンナ,ロベリア,ヒナゲシ,ダリア,アネモネ…」
思わず声に出してしまった事に気付き,横にいる臨床心理士を振りかえった。
が
彼女は特にこれといった反応も示さなかった。
そういえば先程から一度も,彼女はこちらを見ていない。
と言うより,
彼女は彼女の前方以外に,何も見ていないようだった。
首の位置や角度が固定されたマネキンのように,小さく形の良い頭を先程からまるで動かしていない。
その横顔は端正なのに何かが醜かった。
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