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(…うわぁ…
短期のバイトとは言え,こんなロボみたいな人のアシスタントなんて,早くも滅入りそう…)
と
卵香(ランカ)は思った。
彼女自身,どちらかと言えば人見知りする方だし,初対面の人間相手にベラベラ話しかける事の出来るタイプではないが,
(にしても,これは…)
と,再度そちらを見た瞬間,
突然,ぐりんっと,バネ仕掛けの人形のように,相手が勢い良くこちらに顔を回転させて来た為,
思わず
「ひ…っ…!?」
と後退ってしまった。
「何を驚いてるの?」
「い,いや…別に…」
卵香の答えを待たずに,彼女は手早くケーキにナイフを入れ,切り分け始めていた。
「…あの…何を?」
「食べるでしょ?」
「え。良いんですか?」
「良いのよ。
あの子はケーキを作るのは好きだけど,自分では一切食べないの。
あの子…
蜜流(ミツル)ちゃんはね,口にした食べ物はことごとく吐いちゃうのよ。
それにね…」
言いながら,機械のような正確さでケーキを取り分けると,自分の新しいアシスタントの前に,その皿を突き出した。
「“それに”…?」
既に菓子を口に運びながら,そのマネキンじみた心理士は硝子に似た目を卵香に向けた。
「蜜流ちゃん,今朝死んじゃったの。」
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