蜜流(ミツル)と卵香(ランカ)の間接的な出会い

4/4
前へ
/8ページ
次へ
一刹那 彼女の口許の左端がキュッと上がり,金属のような顔に,微笑んだかのような陰が出来たのを,卵香は見逃さなかった。 「…どうしたの?   食べなさいよ。」 「え…? …あ…。 は, はい。」 今朝死んだばかりの精神病患者が作ったケーキを,食べる… そう思うと, 自分の躯を,背骨沿いにツゥーっと,冷たい金属の棒か何かで愛撫されるような,うそ寒い不快感を覚えた。 ピンク色のクリームの壁をフォークで突き破ると,中から,ドロリとした,赤黒いジャムのような粘液が流れ出た。 「どう?」 「…………あ」 思わず声が漏れた。 「美味しい! コレ,凄く凄く凄く,美味しいです! 何コレ,凄いっ!!!」 それは本当に,今まで口に入れた事のある全ての菓子の中で,間違いなくトップクラスに相当する味だった。 「凄いですね-…。 本当に,凄く美味しいです。 こんなに綺麗で美味しいお菓子を作れる人が精神病だったなんて,信じられない。 一体,何をしてこの病棟に入所なさった患者さんなんですか?」 向かい合ってケーキを頬張る,その女の金属じみた顔に また あの笑みが… 口許の左端だけをキュッとあげた,あの笑みが浮かんでいた。 「………人をね………」 「…え?」 「人を殺して   食べちゃったの。」 卵香は口に入れたフォークを停止させた。 「人を殺してね アイスクリームケーキと,ゼリーと,ミートパイにして   食べちゃったのよ。」 声無く笑む その横顔は歪んでいるのに何かが美しかった。image=277868464.jpg
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加