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その霊園は,けばけばしい程鮮やかな花で埋め尽くされていた。
“墓”にはおよそ不似合いな
ピンク
橙色
黄
赤紫 (…et cetera…)
熱帯魚の鱗のような,どぎつい色彩の花々が,互いを噛むように咲き乱れていた。
『配色調和とかまるで無視…?』
大学院で美術を専攻中の卵香としては,どうしてもその方向に思考が行ってしまう。
1つ1つの花が比較的大振りなのも手伝って,死者達の眠るその園全域が,クラクラとした,眩暈を誘うような,不思議に熱っぽい光景になっていた。
(ふと
何かを連想しそうになったが,それが何かは解らなかった。)
場所が「墓場」とは言え,
外部との接触を絶たれた入所者達にとっては,久々の外出らしく,皆興奮した様子に見えた。
墓標に攀じ登る者
何かを訴えながら服を脱ぎ出す者
花を掴み食べ始める者
火の点いた線香の先を他の患者の耳の穴に入れようとして,看護士にこっぴどく叱られる者…
墓前の地面に寝そべり,舌を絡ませ合うレズのカップルもいた。
内1方は拒食症のようだ。
痛々しい程に細いその脚は,中に血等流れていないかのように生白く,アスパラに似ていた。
色彩が飽和した花々の中で,その白い脚だけが妙に艶かしく浮き上がって見え
美しく
思わず見入っていると
アスパラ女の相手役が,卵香に気付いて,ヒラヒラと手をふって見せた。
ぷっくりと肉厚な唇に,よだれが,グロスのように濡れ光っている。
まるで 紅い蛞蝓
その蛞蝓が,卵香に向けてゆっくりと動く
( や ら せ て )
吐き気を堪えたら涙が出て来た。
否
そんな事を気にしている場合ではない。
火葬の時刻はもう迫っているのだから。
霊園の直ぐ裏には火葬場がある。
今からそこで焼くのだ。
今朝死んだ例の少女を。
(ふと
再度何かを連想しそうになったが,
それが何かは,また解らなかった。)
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