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数日後…
久しぶりに訪れた屋敷はあまり変わっておらず、あの頃のままで。
廊下で組の人間とすれ違う度に驚いて俺を見ていた。
「久しぶりだな、朔夜」
座敷の一番奥の部屋。
目の前にいるグレーの着流しを着た彼は目を細め優しく俺を見ていた。
「…お久しぶりです」
前に座る彼を見て一つ深呼吸。
今なら言える。
分かってた事と知っていた事。
「…今まで、すみませんでした。俺をちゃんと大切に思ってくれていた事、本当は分かっていました。それなのに、知らないフリをした。怖かったから…」
言葉が続かなくなり俺は俯く。
しばらくの間お互い黙ったままだったが、そのうち彼がゆっくりと沈黙を破った。
「…朔夜、すまなかった。そして、ありがとう。私は朔夜を誇りに思う。大切な私の息子だよ」
俺は直ぐに顔を上げて前に座っている彼を見た。
やっぱり、さっきと同じ様に優しい目をしている。
俺がそのまま、じっと見ていると彼はクスッと笑った。
「目元とか雰囲気がやっぱり似てる、って青菜さんに言われたよ」
確かに似てるのかな、と付け足してクスクスと彼は笑う。
「青菜さんに言われたんだ。何かをあげる事が、物を残す事がすべてじゃない、って…」
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