お迎えとおかえり

16/22
前へ
/328ページ
次へ
  数日後… 久しぶりに訪れた屋敷はあまり変わっておらず、あの頃のままで。 廊下で組の人間とすれ違う度に驚いて俺を見ていた。 「久しぶりだな、朔夜」 座敷の一番奥の部屋。 目の前にいるグレーの着流しを着た彼は目を細め優しく俺を見ていた。 「…お久しぶりです」 前に座る彼を見て一つ深呼吸。 今なら言える。 分かってた事と知っていた事。 「…今まで、すみませんでした。俺をちゃんと大切に思ってくれていた事、本当は分かっていました。それなのに、知らないフリをした。怖かったから…」 言葉が続かなくなり俺は俯く。 しばらくの間お互い黙ったままだったが、そのうち彼がゆっくりと沈黙を破った。 「…朔夜、すまなかった。そして、ありがとう。私は朔夜を誇りに思う。大切な私の息子だよ」 俺は直ぐに顔を上げて前に座っている彼を見た。 やっぱり、さっきと同じ様に優しい目をしている。 俺がそのまま、じっと見ていると彼はクスッと笑った。 「目元とか雰囲気がやっぱり似てる、って青菜さんに言われたよ」 確かに似てるのかな、と付け足してクスクスと彼は笑う。 「青菜さんに言われたんだ。何かをあげる事が、物を残す事がすべてじゃない、って…」
/328ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7978人が本棚に入れています
本棚に追加