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あいつと出会ったのは、中学三年生のときだった。
その日はちょうど終業式で、俺は明日からの予定を考えながら帰路についていた。
とは言うものの、どうせ去年と同じで遊びまくって宿題に追われているのだろうが。
だが俺は受験生だ。勉強に力を入れないとこの先どうなったものか分からない。
かと言って将来の夢があるわけでもない。
彼女との甘い学園生活を謳歌するといった野望もない。
中身もなく、ただただ惰性に人生を過ごしてきた。
そんな時だった、楽器の音色がうっすらと耳に入ってきたのは。
「おいおい、こんなところで練習かよ……」
呆れた気持ちで音が聞こえてきた場所……雑草が生い茂った河原を眺めた。
俺がそう呟いたのには理由がある。
ここは背の高い雑草が生えていることを利用し、不法投棄や暴行事件などが山ほど起こっていて、近隣住民はあまり近寄らないからだ。
下手の横好きか、はたまたそのことを知らない世間知らずか。
どちらにせよ危険なことに変わりはない。
臭いものには蓋をしろ。触らぬ神に祟りなし。
余計なことに首を突っ込まないほうがいいに決まっている。
「……あー、もう! 仕方ねぇなぁ!」
が、あいにく俺にはそうできない事情があった。
隠すほどのことでもないのだが、物語をドラマティックにするには隠し事が必要である、ってなんかで見たので今は秘密にしておこう。
ともかく俺は、軽く苛立ちを見せながらも歩き出し、青臭さ満載の日本産ジャングルへと踏みこんでいくのだった。
◇ ◇
怒りに任せて進んでいくうち、わかったことが二つある。
一つは楽器がトランペットだということ。
二つ目は噂以上にここがひどい場所だってことだった。
無造作に落ちている様々な物体につまづいて何度転びかけたことか。
そんなこともあり、俺の怒りは有頂天だった。今なら汚いニンジャも倒せそうだ。
怒りに任せて直進していくと、突然目の前に真っ赤な光が広がった。開けた場所に出て、今まで遮られていた夕陽が姿を現したのだった。とっさに腕で目をかばうが、夕日による暴力的な直射日光がもろに入った目にはすでに涙が浮かび、頭の奥に鋭い痛みが走る。
軽くクラっとするがなんとか踏みとどまる。
汚い、さすがニンジャ汚い。
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