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「な…何するんですか!!男!!おれ男ですから!!」
そんなのも無視してその人はおれの腰に手を回し、抱き寄せる。
そして、耳元で静かに呟く…
「…さくら…」
さくら
その呼び方をされるのは久しぶりだった。
おれの名前は父方の祖父がつけた。
『桜のように綺麗に咲き誇り、潔く散る』
そんな桜のように生きてほしいと祖父がその名を俺につけたのだがおれは男。
周囲から女の子と間違うから別な名前でと説得させるが頑固な祖父は勝手に役所に書類を提出してしまった。
おれが周りの言葉を理解してきた頃、“さくら”と呼ばれるのを嫌った。
誰かにバカにされた訳ではない、“さくら”と言う響きが嫌だった。
それは今でも変わらない。
そのため、“さくら”ではなく“よう”と改められたが祖父だけはずっと“さくら”と呼んでいた。
なぜか今そんな祖父の事を思い出していた。
「いっ…」
おれを抱き締める腕の力が強くなり上半身に痛みを感じる。
そのお陰で我に返る。
「離してください!!」
腕を振りほどこうとするが力が強すぎて逃れられなかった。
「離すかよ…やっと見つけたんだから、やっと…」
「やっと見つけた…??」
なんの事かさっぱりわからない。
でも、ふっと頭に浮かぶ光景…
「丘の上の桜…」
つい口に出してしまう
すると、彼は体を離し目を丸くしておれを見る。
「覚えてるのか?」
「な…何も…失礼します」
おれを掴む彼の腕が弱まり、おれは彼を突飛ばしてそのまま走り逃げた。
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