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「月真尼様は労咳なんだよ。
この1年の間、よく血を吐いていてねぇ…。」
お栄さんはそこまで言うと哀しそうに目を細めた。
「医者にはかからないって意固地になるもんだから、トシさんの薬を届けさせてるんだけどね。」
トシさん?薬売りの人?
でも…
いくら薬を飲んでいたって…
1年も血を吐いていたら…
いつ、命は尽きるんだろう?
「今から、行きます。
亡くなる前に、会いたい…。」
私がそう言って立ち上がった時、竹刀を持った若い男の人が庭に入って来た。
「お内儀さん!!大変です!」
「なんだい、宗次郎!
お客が来てるのが見えないのかい!?」
宗次郎と呼ばれた人は私に一礼すると、お栄さんに向き直ってから口を開いた。
「今、平助が、月真尼様の様子を見に行ったら…亡くなられたって…。」
「なんだ「おば様が!?嘘です。そんな…。私、まだ会っていない…。」」
お栄さんの言葉を遮るようにして、言葉を並べた。
江戸に住んでいる唯一の理解者である、伯母様。
一番頼っていた人が私が会う前に命尽きた事に絶えられなくなった。
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
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