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「母さん……」
目の前にあった幻は消え、再び北風が吹いた。
じわりじわりと母を失ったという現実が現実になっていき、心臓を締め付けていく。
もはや風は吹かない。
風源は断たれたのだ。
暖く、北風おも吹き飛ばしていた風は北風すら吹かない極寒の地へと変わった。
ただ凍ることしか許されない雫が目からわき出る。
何時間、こうして立ち尽くしていたのだろうか。
「どうして君は泣いてるの?」
聞いたことのない声が後ろからした。
神宮寺は声のした方を向く。
そこにいたのは見たことのない少年だった。
深く、深くどこまでも落ち続けるのではないかと連想させるほどの黒い瞳が神宮寺を見ていた。
淋しさよりも更に深い悲しみに包まれた少年は脆く、少しでもバランスを崩すとそのままバラバラになるのではないかと思われた。
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