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落とせないゼミにも顔を出さず
一緒だったバイトも無断欠勤した。
携帯も通じない。
そんな事が三日ばかり続き
さすがに何かあったかと部屋を訪れて行った。
部屋の前まで来ると、中から妙な音が聞こえる。人の歌のような、機械音のような音。
思いきって開けたドアの向こうに彼はいた。
カーテンを締め切った真夏の部屋。
その真中で彼は歌っていた。
直立で、一点を見たまま声を枯らして。
放心している彼を何やかやとなだめすかし、事の次第を聞いた。
私と馬鹿話をした日の夜だったという。
寝いりばなに電話が来たのだという。
「あの…」
聞いたことの無い、掠れた女の声だったという。
声が小さくてよく聞こえない。
「…ない…よ」
はぁ?
「きょう…だれ…」
どなた?
「…おも…じゃな…」
同じような言葉をニ三度繰り返した後、沈黙が流れた。
気持ち悪くなった彼が受話器をおこうとした時、はっきりとした声で女が言った。
「あなたが今日思った事、誰にも言うんじゃないよ」
それから三日
何も頭に浮かべないように、歌い続けていたのだという。
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